1. 二酸化炭素を溶媒として用いる酵素反応 光学活性体の合成
安全で多量に存在する安価な二酸化炭素は、高圧状態にすると、酵素反応の溶媒をして利用することができます。"超臨界流体"、"液体"、もしくは、通常の液体に二酸化炭素を混ぜた"CO2膨張液体"として、酵素反応の溶媒として利用することができます。有機合成反応を行うためには溶媒は多量に必要で反応後は廃棄物となるのですが、私たちは、二酸化炭素を利用することにより、枯渇資源由来の溶媒の使用量を削減できることができました。
リパーゼを用いる反応では、これらの二酸化炭素をベースとした再生可能な溶媒の中での反応を行い、医薬品材料となる光学活性体を合成しています。例えば、“生物由来の溶媒”に二酸化炭素を溶かし込み体積を膨張させて得られる“CO2を溶かした生物由来の溶媒”を用いる反応をしています。水中や、“生物由来の溶媒”のみの中では進行しない反応を、CO2を溶かし込むことにより進行させることができました。“CO2を溶かした生物由来の溶媒”中での酵素反応による有機合成の研究は、全く報告例がなく、反応の効率化に成功したことは、世界初の例であります。現在の化学工業では、枯渇が心配される化石資源由来の有機溶媒が多量に利用されていますが、本研究では、CO2と生物由来の溶媒を利用することに成功しました。
再生可能な生物由来の溶媒であるMeTHFに二酸化炭素を混ぜると、体積は10倍以上になります。そのため、反応で必要となる溶媒の量は、1/10以下に減らせます。さらに、MeTHF 中ではほとんど進行しなかった酵素(リパーゼ)を触媒とする有用物質の合成反応は、CO2を溶かし込んだMeTHFの中では、効率良く進行しました。
2. 二酸化炭素を反応物として用いる酵素反応 カルボキシル化反応
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二酸化炭素を反応物としてカルボキシル化反応を行っています。私たちは、以下の水と高圧二酸化炭素の二層系の反応の構築に成功しました。現在、さらに幅広い酵素を用いた反応を検討しています。
3. 空気中の酸素を反応物とする酵素による酸化反応 Baeyer-Villiger酸化反応
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Baeyer-Villiger酸化反応とは、ケトンをエステルにする反応です。酵素を触媒として利用すると、空気中の酸素を、従来用いられてきた爆発性のある物質の代わりに利用することができます。私たちは、土壌からスクリーニングにより得たアセトンを唯一の炭素源として生育する微生物Fusarium sp. はBaeyer-Villiger 酸化反応の触媒となる酵素を持つ事を見出しました。基質として環状ケトンを用いると生成するラクトンは、香料などとして利用できる有用な物質で、本酵素は、いろいろな環状ケトンの酸化反応を触媒します。さらに、本酵素はスルフィドの光学活性スルフォキシドへの酸化反応を触媒することも見出しました。
4. 酵素によるアルデヒドの酸化反応 爆発性のある物質を利用しない
酸化反応
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酸化反応は、有機合成を行う上で、重要な反応であり、例えば、アルデヒドを酸化しカルボン酸を合成する反応があげられます。一般的には、酸化反応には、クロムなどを用いる過激な物質が用いられています。強い酸化力を持つ酸化剤は、非常に優れている一方で、爆発性や毒性を有する危険な物質です。私たちは、環境に負荷を与えない酵素を用いて酸化反応を行っています。
5. アルコール脱水素酵素による不斉還元反応 超精密な立体選択選択性の制御への挑戦
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私たちが見出したGeotrichum candidumアルコール脱水素酵素による反応は、非常に立体選択性(右手左手の関係にある化合物のどちらかを選択的に合成する能力)が高いことを見出しました。立体選択的な反応が非常に難しいとされている反応物を用いても、高い立体選択性を出すことに成功しました。さらに、酵素の1つのアミノ酸残基を他のものに変異させるだけで、逆の立体構造を持つ生成物を作ることができました。なぜ、立体選択性が、それほどまで高いのかを、酵素の立体構造を解析して調べています。